第一楽章でエネルギーを使い果たさないで第2楽章を弾いてほしいな、と願いましたが、心配は現実のものとなったように思います。
休憩後の第一楽章では30番の演奏のレベルが戻ってきてダイナミックかつ繊細で抑揚の美しい素晴らしい音楽が聴けましたが、
第一楽章の最後で疲れが見え始めて少しもたつき、第2楽章では、少し集中力を欠き、各変奏がややバラバラで、アリエッタの多様な要素を
一つにまとめ上げ高めていく構築力を発揮するまでには至らなかったと感じました。
あの柔和で表情豊かな素晴らしい30番を聴いた後だけに、一曲ごとに休憩が入っても、いや、32番は楽章ごとに休憩が入ってもいいから、
ベストに近いコンディションでの演奏を聴きたかったなぁ、と思ってしまいました。
アンコールにシューマンの予言の鳥とリストのハンガリー狂詩曲11番を弾いてくれました。それまでの辛そうな演奏から解放されて
思う存分ピアノを鳴らして質の高い音楽を奏でて聴かせてくれたので、私は素晴らしかったと思います。
それらが聴けたことに喜びを感じつつ、ベートーヴェンのピアノソナタには、どうも演奏家に筋肉トレーニング的な力を要求する側面があって、
70歳代を過ぎたピアニストに体力的・肉体的に酷な側面があるような気がしてなりませんでした。
後期ベートーヴェンのソナタの後にあの選曲はいかがなものか、というご意見もあろうかと思いますが、彼の演奏が初体験の私にとっては
あのアンコールがあったことで、ヴォスクレンスキーさんの柔和で表情豊かなピアニズムに触れることができたと思うので、よかったです。